━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━        「スパット・ボウリング」から「ドット・ボウリング」への転換に挑む        ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    ・はじめに・  ボウリングという一見単純そうなスポーツの世界に足を踏み入れると、たちまちその面 白さと難しさの両方に直面して、気がつくと重症の「ボウリング熱中症」に罹っている。 基本的に個人競技であり、一人でそのプレーも成績も完結するので、研究熱心なボウラー は自分の投球動作を分析し、成績の統計をとり、他のボウラーを観察し、いろいろな改善 や工夫に取り組んでいく。かくいう私もきわめて重症の「ボウリング熱中症」患者で、だ からこそこのような、「図解なし・写真なし・イラストなし・統計グラフなし」という、 時代錯誤の「文章だけのホームページ」を作って、せっせと書き足しているわけである。  『日々の研究』コーナーのbX(2013.07.22)で、私は『「スパット・ボウリング」か ら「ドット・ボウリング」への転換に挑む』というタイトルの一文を書いた。それはある 日の練習で突然ひらめいた思いつきで始めた投げ方で、これまでも数えきれない思いつき で技術的な工夫を重ね、取り入れては放棄するということをくり返してきたので、今回も そのレベルの気軽な取り組みであった。しかし、この試みで自分のボウリングが新しい段 階に変わっていくことを、今は予感している。確かに不安定要素もリスクもあるが、今は それ以上に数多くの良い変化をもたらしつつある。  そこで、今日までの約10日間の練習とリーグ戦を、すべて新しいスタイルで投球して きたので、この辺でデータを分析しながら、その効果と課題について自己評価をして、多 くのボウラーの方々の参考になることを願って紹介したいと思う。 ・1.「スパット・ボウリング」の意義と問題点・ (1)「ターゲット・アロー」と呼ばれる理由と基本的な活用法  ボールを持ってアプローチに立って、ファウルラインの向こうに伸びていくレーンと、 その先にある10本のピンを眺めると、それほど遠いとは感じないし、レーンの幅もけっ こうあるように感じるものである。しかしレーンの幅はわずか3.5フィート(106.6p )なのに対して、ファウルラインから1番ピンまでのレーンの長さは60フィート(18.2 8m)あり、その長い長方形の二辺の比率は1:17を超えている。  この形がいかに厳しいものかを実感するには、白紙の上に、レーンと同じ比率になるよ うに幅1p長さ17pの長方形を描いてみるとよい。これは削る前の新しい鉛筆の長さよ りもほんの少し短く、ほんの少し太いだけの、驚くほど長く、狭い長方形である。ボウラ ーはこの長方形の中でボールを走らせ、センチメートル単位のコントロールを競うのであ る。どんなにむずかしく困難な競技であるか、あらためて痛感する。  この厳しい競技環境を思えば、困難に挑むボウラーを補助するためのさまざまな「マー ク(目印)」が必要なことは明らかである。横方向に関する目印は、幅2.73pの、合 計39枚の「板目」である。そして縦方向に関して設けられている目印の代表的なものが 、ここで取り上げる「スパット」である。このマークがボウリングの歴史の中で、どの時 点でどういう判断にもとづき、誰が考案し決定されたものか、私はその経過を知らない。 ここではルールとして確定していることだけを数値的に確認しておこう。  スパットは横一列に並んでいるのではなく、中央スパットが一番遠くにあり、両端のス パットが最も近くにあるという、いわゆる「山型の配列」になっている。一個のスパット の形状は、板目一枚の幅(底辺)で長さ(高さ)は6インチ (15.24p)と定められて いる。レーンの右から5、10、15、20、25、30、35枚目の順に5枚ごとにマークされてい るが、横一列ではなく、2フィート(60.96p)の幅の中に山型に並んでいる。  ではそれらのスパットは、レーン上のどの位置に置かれているだろうか。ファウルライ ンから最も近い両端のスパットは12フィートのところにある。1番ピンまでの距離60フィート のちょうど五分の一の距離である。しかし、アプローチに立って構えたとき、これらのス パット群は、ボウラーの視角にはほとんどレーンの真ん中にあるように見える。そして、 スパットを目標にして助走を開始すると、どんどん近づいてきて最初とはかなり違った見 え方になる位置で、ボールをリリースすることになる。ここに「スパット・ボウリング」 のむずかしさがひそんでいる。  しかしこのマークがボウラーのコントロールを助ける目的で設定されていることは明白 で、ボールを持って構える位置にある2列の「スタンス・ドット」、およびファウルライ ン近くに置かれた「リリース・ドット」と共に、ボウラーの助走と投球を支援する(ある いはボウラーがレーン攻略の方法を練る)ための一連のマークの一つである。  中でもスパットは、助走のための目印ではなく、リリースしたボールが確実にポケット をヒットするためのコントロールを助ける、最も重要な目標となるマークである。だから こそ「ターゲット・アロー」と呼ばれたりするのである。  このマークをどう活用するか。ファウルラインと1番ピンの距離の五分の一にある、と いうことが、ボウラーの投げ方や球質の個性にさまざまな影響を与える。そもそもスパッ トを単にターゲットととらえるか、もっと厳密なとらえ方をするか。上級者なら誰もが認 識していることであろうが、スパットは単なるターゲット・ポイントではない。その「一 点」を通過しさえすればコントロールは完璧、ということにはならない。問題はもう一つ ある。それはどういうふうに通過していったか、ということである。つまりスパットは「 ターゲット・ポイント」としてだけでなく、「ターゲット・アングル」(ターゲットをど んなアングルで通過したかを把握する目印)としても重要なマークである。  要約すれば、ターゲットをきちんととらえて「通過した」か、そしてそれは「どんな角 度で」だったか、という見方でスパット付近を通過する自分のボールを評価することが、 真のスパット・ボウリングの目指すべきところである。  ただし、一般的にはもっと簡略に、スパット付近の板目を目標に「このレーンは第二・ 第三スパットの間をねらおう」とか「10枚目ではふくらみ不足になるので、11枚目を 通してみよう」などと戦術を考える。そして、自分の助走のステップとスイング、および リリースのポイントが安定していれば、スパット付近の目標ポイントを通過させるコント ロールがあれば、ボールはかなり高い確率でポケットに入っていくのであり、まずはその レベルを目指すのが適切であろう。 (2)スパットと他のマークとの関係・・・「ラインを描いて投げる」  ボウリングにおける「ライン」の考え方は、アプローチにおけるステップとスイングが 生み出す「助走中のボールのライン(スイングが生み出すボールの軌道))」と、リリー ス後の「レーンを走っていくボールのライン」という、二段階の把握をすることが大切で ある。その観点でアプローチとレーン上に設定された数種類のマークをとらえ直し、ボー ルのラインの全体像を描くことは大きな意味がある。  いわゆる「スパット・ボウリング」をしているボウラーの場合、「ラインを描いて投げ る」上で特に注意しなければならないのは「フィニッシュ・ポイント」(踏み込み足の位 置)である。ラストステップの踏み込み足(右投げの左足)がどこに来ているか、それは 投球ごとに左右にブレていないか。それが安定して初めて、「リリース・ポイント」(ボ ールがフィンガーから離れる位置)あるいはボールの「着地(着床)点」が安定し、その 結果「スパットをねらう」ということが初めて意味を持ってくるのである。  元をたどれば、最初の「位置決め」のポイントはアドレスで構えたときのボールの位置 である。そこから「ボールの始動」「ステップの始動」へ、そしてステップに導かれなが らボールがスイングによって「一つの軌道」を描き、リリース動作によって指から離れて いく。だから「ライン」の始まりは、アドレスで構えたときのボールの位置である、とい うのが正解であり、そこからリリースの瞬間まではとても重要であり、失投の原因はその すべてにひそんでいる。  ボウラーはアドレスで構えたときに、自分の投げたボールの軌道についてイメージを描 いている。本当はこのときにリリース後のボールだけでなく、助走中のボールの軌道のイ メージも描くことが必要なのだが、なかなかそこまで意識しているボウラーは少ないかも しれない。では、一般的にボウラーはボールの描く軌道について、どのようにしてイメー ジを確定しているだろうか。  手を離れたボールの動きをたどっていくことを支援するマークはスパット以外にはほと んどない。レーンの奥の方に「ダウンレーンマーク」と呼ばれるものが設定されている場 合があるが、全てのボウリング場がそうなっているわけではない。これがあると、ボウラ ーはドライゾーンに入ってからのボールの動きをかなり正確につかむことができる。では そういう目印が何もないときはどうしたらいいか?  たとえば第二スパット(10枚目)を通過させたボールが外にふくらんで走っていき、 ドライゾーンに入って曲がり始めるところ(フッキングポイント)を、アウトサイドの4 枚目あたりにイメージする。ドライゾーンはオイルパターンにもよるが1番ピンから見て 15〜18フィートあたりから始まっているので、フッキングポイントは1番ピンの手前10 フィートあたりであろうか。  あとは各ボウラーの球質(スピード、回転、ボールの重さ)と、フッキングポイントに 入っていくときの角度(ふくらみ具合)によるが、ボウラーはそこからボールが曲がって いってポケットに向かっていくことを期待し、そのようなラインを思い描くわけである。 いずれにせよスパットとピンの間には目印となるものがほとんどない。それがボウリング のむずかしさを増しているわけだが、正式に設定されたマークだけが目印というわけでは なく、ボウラーが自分で「自分だけの目印」を見つけて活用する方法もある。ウッドレー ンだけでなく合成レーンも板目が描かれており、そこには板の切れ目や一枚ごとの色合い が存在し、場合によってはさまざまなキズあとなどが残っている。また、室内の照明や壁 面の色合いなどがレーン上に反射して、いろいろな変化をつけている。それらをうまく活 用して自分だけの「ライン通過を確認する目印」にすればよいのである。 (3)「スパット・ボウリング」の問題点  ここでは私が個人的に感じてきたこと、悩んできたことを中心に、スパット・ボウリン グのむずかしさについて整理したいと思う。ファウルラインから12フィート、1番ピンまで の距離の五分の一のところにスパットがある、というのは「ボールを通す目標点」として は実に適切な長さであるかもしれない。確かに、そこを一定のアングルで通過し、安定し たラインを描いていけば、ポケットにボールを集める確率は非常に高くなる。その意味で は「スパット・ボウリング」はまさに理にかなっている。  しかし同時に、この方法によって私は以下のような課題をかかえ、どうしても解決でき ないでいた。第一は、アドレスではスパットがレーンの全長の中央あたりにあるように見 え、リリースの時点でも実際に12フィートも先にあるため、目の方向が遠くになり、それだ け顔が上がってしまう傾向があること。そのため投球姿勢も高くなりがちなこと。特に気 になっていたのは、リリースのときにスパットを見ようとすると、どうしてもアゴが上が ってしまうのである。野球、テニス、卓球など、ボールを打つ競技ではその瞬間にアゴを 引いておくことが鉄則である。ボウリングのリリースの瞬間も同じで、アゴか上がるとど うしても視線がブレやすくなる。そのことが、コントロールを乱す原因になっているので はないかと、長く引っかかっていた。  第二は、スパットがボウラーから意外に遠い距離にあるため、ボールの通過点が正確に は把握できないことである。また、ターゲットに目を残そうと努めても、どうしても目が ボールを追いかけてしまうことも、この距離があるために目の下を通り抜けていくボール をつい見てしまうからではないか、と感じていた。  第三は、スパットを通そうとするあまりボールをロフト気味に放り投げてしまう傾向が 出ることである。これは抑制することもできるが、コントロールが狂ってくるとどうして もスパットに意識が向いて、ボールをスパットに直接放り投げるような感じからロフト気 味なボールになる。その結果、ボールの回転やスピードも不安定になる。  もちろん、うまくリリースできてボールがターゲットを完全に通過し、思い描いた通り のラインからポケットをヒットすることもあるのだが、以上のような問題を感じることも 多く、しかも解決の方法が見つからないでいた。  そしてあるとき、「ターゲットをもっと近くに設定して投げる」という方法をためして みよう、という気持ちがごく自然に生まれた。  誰でも知っていることだが、ファウルラインからスパットまでの12フィートのちょうど中 間の6フィートのところに、「ガイド」と呼ばれるドットが左右に5個ずつ並んでいる。それ ぞれレーンの端から3・5・8・11・14枚目に置かれている。これをターゲットにして投 球するボウラーもいることは知っていたし、ボウリングをやり始めたころテスト的にこれ を使って投げてみたこともある。しかしそのときは、ターゲットが近すぎて、通過したあ とのコントロールがバラバラになるように感じたので、早々にやめてしまった。その当時 は助走のフォームも安定せず、着床直後のボールのライン(アングル)も今よりはるかに 不安定だったからであろう。しかし今回は、スパットボウリングの壁に苦しんだあげくの ことなので、真剣さも違っていたのだと思う。こうして、私のボウリングは「ターゲット の変更」という大きな改革をスタートしたのである。 ・2.「ドット・ボウリング」に変えることが生み出す効用と課題・ (1)「ターゲット通過状況」を正確に把握できる  「ドット」はファウルラインから6フィート、つまり2メートル弱のところにあるので、ボール がどの部分を通過したかが、かなり正確に観察できる。スパットの場合はボールの接地面 が距離的に離れているので見えやすいという利点はあったが、実際のボールはややふくら んで通過していくので、目標とする板目に対してどの程度重なって通過したかが、4メートル 近くも離れていると正確には判断できないことが多い。  しかし2メートル弱の場所に一列に並んでいるドットか、もしくはその間の板目を見つめて 投球すると、ドットとドットの間の板目は1枚か2枚のいずれかなので、非常に判断しや すい。たしかにスパットとは違って、目標があまりにも目の前にあるので、ボールが通過 する瞬間の接地面はボールに隠れて見えにくい。しかしボールの全体像とドット列の関係 に対して観察眼が慣れてくれば、かなり正確に判断できるだろう。  大切なことは、ターゲットへの集中力が増して、しかもボール通過後に、そこに目を残 すということができるようになったことである。むしろそのあとのボールのラインを確認 する動作が遅れ気味になるくらいである。ドット通過を確認して、さらに目を移してスパ ット通過状況まで観察することができれば、ボールの「ライン」(アングル)を正確に把 握することができて、さらに理想的だろう。 (2)「リリース・ポイント」(ボールの着地点)を手前にできる  ドットを見て投げるようにすると、少なくともその先にまでボールを放り投げるような ことはなくなる。現在は視線と姿勢が低くなった効果で、ほとんどの投球がドットとファ ウルラインの中間くらいの所に着床させられるようになってきた。それによって、リリー スポイントも手前に移行し、フィンガーでボールを引っかき上げる失投も減ってきたよう に思う。このことは、ボールのコントロール、球速、回転などを安定させる上でも有効な のではないかと思う。 (3)視線が低くなり、ラストの踏み込みがより低く鋭くなる  助走開始からリリースまで、以前よりも視線が低くなったので、特に助走動作の後半が 低く踏み込んでいくようになり、それだけスイングも鋭さを増したように思う。球速表示 には大きな変化は見られないのだが、ボールの走り方と回転が向上しているように実感す るし、ジャストポケットをわずかに外れていてもピンアクションでストライクになるケー スが明らかに多くなった。これは、ドットボウリングに切り換えたことの、思わぬ副産物 である。データとしての変化と分析はあとの項目で紹介したい。 (4)【課題】ターゲット通過時の「アングル」の小さな狂いが致命的になる  現時点では以上のようにプラスになっていることが多いが、一つ痛感している課題を上 げておきたい。ボウリングはリリースしたボールがポケットに向かっていって、10本の ピンを倒すことを目的にしているが、そのためには正確なコントロールを維持する必要が あり、そのゆえに途中にボールを通過させる目標物が必要である。そしてそのターゲット は、ピンに近いほどピンに対してのコントロールは増すが、ボウラーにとってはそのター ゲットを通過させることの困難さも増してしまう。反対にターゲットがボウラーに近いほ どそこを通すことは容易になるが、そこからピンまでの長い距離をコントロールする困難 さが増してしまう。そういう矛盾する二つの条件を満たす最善の距離に設定されたのがス パットだったのであろう。  そういう意味で考えてみると、私が試み始めている「ドット・ボウリング」という考え 方は、実は大きな危険性を持っていることがわかる。ファウルラインから6フィートのところ にあるドットは「ガイド」という別名を持っていることからも明らかなように、それは本 来スパットをターゲットにする場合の補助的な「第一目標物」として利用できるように設 定されたものなのだと思う。つまり、ガイド(ドット)を通過して、スパットを通過する 、そのラインを描くことでポケットに向かうコントロールをより正確にする、というのが 本来の使い道だと思う。  裏返せば、純粋にドットをターゲットにする投球は、そこを通過するときのアングルが 少しでも違ってしまえば、ピンまでの距離が非常に長いだけに、ラインは大きくはずれて しまう危険性を持っていることになる。そのことは、取り組み始めた私もすでに痛感して いることであり、ただし従来のスパットボウリングに戻らずに、できる対策を考えたいと 思っている。  一つは助走のステップとスイングをもっと安定させることである。リリースのかたちと ポイントを安定させることも大切である。フィニッシュのステップを落ち着かせてレベレ ージ姿勢をしっかりとることも重要であろう。そして最終的には「ドット→スパット」と いうラインをターゲットにすることを目指すべきなのだと考えている。 (5)【これまでの評価】・・・各10日間のデータを比較する・・・  「スパット・ボウリング」をしていた最近10日間のデータと、その後「ドット・ボウ リング」に変えた10日間のデータを対比して、分析してみたいと思う。 「スパット・ボウリング」のデータ (※印=ウッドレーンのセンター)         (スペア率=分母は第1投の数からストライクと第10フレームの最終投球を除く。       カバー率=分母はスペア率の分母と同じ。分子はストライク数とスペア数の合計)  日 ゲーム アベレージ ストライク率  スペア率  スプリット率 カバー率  1 ※4  175.3  42.2%  53.8%   6.7% 73.3%  2  4  188.3  44.4   66.7    8.9  81.8  3 ※3  176.0  37.5   63.2    9.4  77.4  4  6  160.0  23.4   58.7   17.2  68.9  5 ※3  168.7  25.0   59.1    6.3  70.0  6  3  166.7  32.3   45.0   29.0  63.3  7 ※6  163.8  32.3   54.8    7.7  69.8  8  5  188.0  42.3   62.1   11.5  78.4  9  3  197.7  47.1   70.6   14.7  84.8  10  5  181.2  40.7   60.0   18.5  76.9  平均 計42 175.5  36.3%  58.9%  12.8% 74.3% 「ドット・ボウリング」のデータ  日 ゲーム アベレージ ストライク率  スペア率  スプリット率 カバー率  1 ※4  185.0  47.7   61.9    9.1  81.0  2  3  174.7  34.4   65.0    3.1  77.4  3  5  184.2  48.2   46.2   16.1  73.6  4 ※5  185.6  32.7   74.3    9.1  83.0  5 ※6  185.2  38.1   67.6    6.3  80.3  6 ※3  190.3  48.5   62.5   12.1  81.3  7  4  199.0  43.2   68.2    9.1  82.9  8 ※5  193.6  40.0   81.3    1.8  88.9  9 ※5  184.0  38.2   68.8    5.5  81.1  10  6  198.5  44.6   75.0    4.6  88.9  平均 計46 188.5  41.4%  68.2%   7.6% 82.2% 「日々の目標水準」との比較(最近の練習やリーグ戦で自分の目標としていることと比べ               て、どの程度下回っているか、あるいは上回っているか)        アベレージ ストライク率  スペア率  スプリット率 カバー率  日々の目標 180.0  40.0%  70.0%  10%未満 80.0%  従来の投法  −4.5  −3.7  −11.1   −2.8  −5.7  新しい投法  +8.5  +1.4   −1.8   +2.4  +2.2    差    13.0   5.1    9.3    5.2   7.9  〇アベレージ=わずか10ゲームずつのデータではあるが、この結果には自分で大変驚   いている。アベレージを5ポイント上げることの大変さを、最近は特に痛感している   からである。このデータの13.0上昇という結果は、まだまだ不安定な要素を含ん   でいると思うが、次のストライク率からカバー率までの数値が、上昇の内容をきわめ   て具体的に裏付けているので、私としては大変効果の高い試みだったと考えている。  〇ストライク率=現在の私の実力ではストライク率40%というのはかなり高い目標で   実感としては「超えるのは四日に一日程度」というところである。まして50%は、   2、3カ月に一回というほとんど不可能なレベルである。45%を超える日は「今日   ストライクボウリングの水準だった」と感じることができる。それにはまだ遠いが、   平均で40%を超えたというのは、大変大きな収穫と言える。ドットボウリングにし   てみると、たしかにボールの回転力が向上し、ポケットに集まる率も高くなり、それ   だけストライクが増えているのを感じる。  〇スペア率=自分が蓄積しているデータの種類の中では、最も上下の変動幅が大きい項   目である。その原因の一つは、スプリットが多い日と少ない日の差が大きいこと、も   う一つは、10番ピンカバー率が日によって不安定なことである。ドットボウリングに   してから、スペア率が確かに向上してはいるが、日によってムラがあることには変わ   りがないので、この点の課題は変わらずに残っている。  〇スプリット率=これも日によって変動が大きい項目である。その原因は、比較的アベ   レージが高く、ストライク率も高い合成レーンのセンターの方が、ボールの曲がりが   強いためスプリット率も非常に高いことにある。もう一方のセンターはヒトケタ台の   スプリット率だが、合成レーンのセンターでは、どうしてもフタケタの率になってし   まう。それが、ドットボウリングに切り換えてからは、ヒトケタ台に落ち着いてきた   。スプリットというのは、許容範囲を超えたコントロールミスをしてしまったときに   多発する。ヘッドピンの右にきわめて薄く入ったり、外してしまったり、あるいはヘ   ッドピンのほとんど中央にボールが入ったりしたとき、それは発生する。それがいず   れのセンターにおいてもヒトケタのパーセント台に落ち着いてきたということは、ぽ   ケットにボールを集めるコントロールが向上したことを意味しているのではないか。   だとすれば、ドットボウリングのねらいは見事に的中していると言える。  〇カバー率(第1投の全数〔ただし10フレームの第1投で終わったケースは除外〕に対する   ストライクとカバー成功の合計の占める割合)=これは要するに、ストライクとカバ   ーの数が多ければ上昇する数値であり、スプリットと1、2本残りのイージーミスさ   えなければ、80%を超えるのはそれほど困難ではない。しかし現実には、80%に   達しない日の方が多く、最近は数日に一回のペースに悪化していた。しかしドットボ   ウリングにしてからのデータでは80%を超える日の方がはるかに多くなっている。   このデータは、アベレージの上昇と同じく総合的な向上を物語っており、ストライク   が増え、スプリットが減少し、ポケットを外すことも減ってきたこと、などの総合的   な改善の成果が現れている数値だと思う。 ・3.「ターゲット・ボウリング」と「ライン・ボウリング」について・ (1)「野球の投手」と「ボウラー」を比較する  ボウリングのファウルラインから1番ピンまでの距離は60フィート(18.28メートル)で あり、それは野球におけるピッチャーズ・マウンドの前部からホームベースの後部までの 距離(18.44メートル)とほぼ同じである。野球の投手は直接キャッチャーミットをめが けてボールを空中に放るので、途中の目印は存在しない。それに対してボウリングではね らうのはピンだが、ボールは床面を転がすので途中の目印を設定することが可能である。  野球の投手が相手にするのは人間(打者)である。打者は投手が投げるボールをストラ イクかどうかを見きわめながら打って出塁することを考える。投手の得意とするボールを 知り、次に投げる球を予測して対策を練る。投手は打者の得意ゾーンや苦手な球種などの 知識の蓄積をもとに捕手と共同して、投球方法を考えて対処する。  それに対してボウリングのボウラーが相手にするのは人間ではなくピンである。ピンは 何も考えずいつも同じかたちでそこに立っている。しかし打者という「考えて立ち向かっ てくる相手」がいない代わりに、レーンという「デリケートに変化することでボウラーを 困らせる相手」がいる。ボウラーはレーンだけでなく環境のあらゆる変化を繊細な感覚を 駆使して読み取り対処しなければならないが、野球の捕手のような相談相手はいない。  野球の投手は打者の向こうにしゃがんでいるキャッチャーのミットをめがけて投げる。 数センチの誤差、あるいはそれ以上のコントロールミスがあっても、人間であるキャッチ ャーはミットを動かしてボールをつかんでくれる。打者も、投手のコントロールミスを突 いてヒットを放つこともあるが、それを見逃したりミスショットしたりすることも多い。 しかしボウリングのピンは、ボウラーの小さな投げミスを見逃してはくれない。ラッキー なピンアクションで予想外の良い結果も起きるが、たいていはボウラーがミスをすると、 投げた瞬間に彼が恐れているそのとおりの結果が出るものである。  このように考えると、ボウリングのボールはたしかに野球のボールよりはるかに大きい が、18メートル先にある10本のピンを全て倒すには非常に精密なコントロールが必要であ り、しかも刻々と変化するレーン上をボールを転がしてねらうため、さまざまな情報をキ ャッチし活用する要素がなければ、競技として成立しにくい。そこで早くから設置されて きたのが、レーン上のさまざまな目印である。  野球の投手はキャッチャーミットをめがけてボールを投げるが、実は真の相手は捕手で はなく、その少し手前に立っている打者である。ここが重要なポイントで、投手にとって キャッチャーミットは自分が投げる「目印」なのである。球種を決めてマウンドの立ち位 置を決めてボールをその球種の握りでつかみ、キャッチャーミットにおさまるまでの空中 のラインを頭に描く。そしてキャッチャーミットにおさまる直前に打者がバットを持って 待ち構えているゾーンを通過するとき、その打者が最も打ちにくいラインもしくは最も見 逃す確率の高いラインをねらって投げる。  野球の投手と捕手は、打者のこれまでの結果や対戦成績というデータを踏まえ、打席に 入っているときのしぐさや立ち位置、あるいは構えを観察して、攻め方を懸命に考える。 ボウラーは、自分のこれまでの投球の状況と結果を観察して、レーンコンディションの変 化を読み、自分のコンディションと投球内容を分析し、次の投球方法を考える。相手は人 間とピンという違いはあるが、投球にあたって検討することは同じである。その際に、野 球の投手が持っていなくて、ボウラーが持っている大切な情報源がレーン上の「マーク」 なのである。とりわけ、ボウラーが投球の目印として設定する「ターゲット」の、考え方 と設定の方法は、そのボウラーの成績を大きく左右するのは間違いない。そこで次に、タ ーゲットの設定の理論的根拠を検討してみたい。 (2)「近いターゲット」と「遠いターゲット」のどちらが良いか? 【スパット・・・標準的なターゲットとして】  ボウリングの目的は約18メートル先にある10本のピンを倒すことである。そのためには ボールをレーンの途中から曲げて、ある程度の入射角度で、かつ17.5枚を理想とする ポイントを通過して「ポケット」に入れる必要がある。そこでボウラーはレーン上に設定 されたマークを目印として活用して、ボールをコントロールしようとする。その目印をこ こではターゲットと呼んできた。  ではそのターゲットは、ボウラーからどの程度の距離にあるのが良いのだろうか?たと えばボウラーからは遠く、ピンにできるだけ近い位置にターゲットを設定すれば、そこを 通過しさえすればピンまでの距離は短いので、ポケットに集める可能性は高くなるが、ボ ウラーから遠くなる分、そのターゲットに正確に乗せることは困難になる。  逆に、ボウラーから近く、ピンからは遠い位置にターゲットを設定すれば、そこを通過 させる可能性は高くなるが、そのあとの距離が長いのでボールがポケットに向かっていく 可能性はどうしても低くなってしまう。  そこで、現在ボウラーにとってターゲットとして活用されているスパットとは、どのよ うな位置にあるのかを、あらためて検証してみよう。  レーンの全長(ファウルラインから1番ピンまで)は60フィート、オイルはパターンによ って異なるが、だいたいファウルラインから40フィート前後まで塗られているので、レーン 全体の70%程度を占めている。そこから先の残り30%程度がドライゾーンとなる。ボ ールはドライゾーンに入ると摩擦が加わって次第に曲がり始める。  問題のスパットは、ファウルラインから12フィート〜14フィートの幅の中に、山型に7カ所 に描かれている。スパットの形は長い三角形で底辺は板目一枚分、長さは6インチ である。 そして実は、ファウルラインとスパットの間にはもう一つ目印が描かれていて、それが「 ガイド」と呼んでいる小さな丸印である。これについてはあとで詳しく触れたいと思う。  さてそのスパットは、レーン全体の五分の一のところにあり。そこをうまく通したとし ても、その先に五分の四のレーンが残っている。オイルゾーンの約40フィートだけで考えて も三分の一のところである。しかしアドレスの位置に構えて立つと、そのスパットがレー ンのほぼ真ん中あたりにあるように見える。実際の距離の上では決して遠くにあるとは言 えないのだが、視覚的な感覚の上ではきわめて遠くにあるように見える、これがスパット の大きな特徴である。 【遠いターゲットの功罪】  ところで何を目標に決めて投げるかは本来ボウラーの自由である。そこでいろいろなタ ーゲットの可能性と、それぞれの功罪について考えてみたい。最初に「ターゲットをなる べく遠くに設定する」としたら、どんな方法が考えられるだろうか。  最も極端な方法は、マークを全く使わず「ピンを直接見て投げる」という方法である。 ボウリングの初心者が、何のアドバイスもなしに投げると、よくやる方法である。ストレ ートのボールならある程度コントロールできるが、曲がるボールを投げ始めると、この方 法はたちまち行き詰まる。  次に考えられる「遠くの目標」は、フッキングポイントあたりに目印を設定することで ある。しかしこれも、曲がるボールを投げるボウラーにはあまり現実的なターゲットでは ない。自分のアドレスでの立ち位置、フィニッシュでの立ち位置を厳密に設定するレベル になれば、ステップとスイングの延長に、レーン上を進んでいくボールの「ライン」を描 かないわけにはゆかないからである。  そこで多くのボウラーが自分で考えたり周りからアドバイスを受けたりして、結局たど り着くのが「スパットを見て投げる」という方法である。推測だが現在の多くのプロボウ ラーも、もちろん上級アマチュアの大半も、スパットをターゲットにして投げているので はないかと思う。ボールのコントロールを「ライン」で考え、リリースから、まっすぐ走 らせてドライゾーンに入って曲がりはじめ、ポケットに入っていくまでのボールの動きを 描いたとき、「ここを通せば、だいたいポケットに入っていくだろう」という「中間目標 」としては、スパットはたしかに手頃な場所にある。  しかし最近の私の感想はそれとは少し違ってきている。それは「スパットは投球のター ゲットとしては、少し遠いのではないか?」という疑問である。少し前に「スパットボウ リングの問題点」という項目で述べたように、ボウラーからの「遠さ」が、少なくとも私 の場合は三つの問題点を生み出していると感じている。第一は、フィニッシュの姿勢でス パットを見ていると、どうしても顔(アゴ)が上がってしまうこと。第二は、スパットに 目を残そうと心がけても、リリースしたボールに意識が向いているため、スパット付近を 通過したボールを追って見てしまうこと。第三は、顔が上がり、リリースの姿勢が高くな りやすいため、またスパットをねらう意識が強いことも加わって、ボールを遠くに放り投 げる傾向になりやすいことである。これらに加えて、ファウルラインから12フィートという 距離は「完璧に通過させる目印」としては、やや遠すぎるのではないかという私の実感も 上げておきたい。 【もっと近いターゲットを考えてみる】  そこでもっと近くにターゲットを設定する、ということを考えたときに浮上してくるの がファウルラインとスパットの中間点にある「ドット」である。この投球法の功罪につい ては「ドットボウリングの効用と課題」の項目で述べたとおりであるが、簡単に整理して おくと、私がスパットボウリングで感じていた三つの問題点を解決する上では、非常に効 果的だと実感している。その第一は、目標がグッと近くなったことにより視線が低くなり リリースでも顔が上がることがなく、それだけラストの踏み込み姿勢が低く鋭くなること 。これはボールの威力に確実にプラスにはたらいていると思う。第二は、リリースの瞬間 にすぐ目の前にターゲットがあるため、そこをボールが通過した状況がよく把握できる。 つまりボールを目で追ってしまうということが激減する。第三は、すぐ目の前にあるター ゲットよりも手前にリリースしようとするので、自然とボールの着床点がスパットを見て 投げるよりも近くなる。これまで着床点の距離にムラがあったのが、非常に安定する。  ではターゲットを近くしていく方向で追求した場合、その限界はどのあたりだろうか。 私はファウルラインとガイドの距離の、さらに半分くらいまで追求できるのではないかと 考えている。つまり3フィートあたりの板目をターゲットにする方法である。これによって、 踏み込みの姿勢はさらに低く鋭くなり、ターゲットを通過したかの確認もより確実にでき る。しかしここまで近くしてしまうと、いろいろな弊害も感じられてくる。その第一は、 上体だけが低く突っ込んでしまう危険性が増すこと。第二は、フィニッシュの足の位置や スイングが少しでもブレていると、ターゲットを通すことで逆にアングルの狂いが増幅さ れて致命的なコントロールミスやラインミスにつながりやすいことである。  つまりターゲットを近づけることで、コントロールの向上と、ボールの威力アップを目 指すという目的が、限界を超えると逆効果になりかねない、ということもわかってきてい る。  あとはそれぞれのスタイルの中で長所を伸ばし、欠陥をカバーできるような投球技術を 修得できるかどうかにかかっていると思う。 (3)ボールをラインに乗せる方法:「ポイント」「アングル」「ライン」の3原則  ボウリングという競技は、球技の中でも最も重いボールを走らせて18メートル先にある  10本のピンを倒すことを競うものである。考えれば誰でもわかるように、そのためには 非常に精密なコントロールと、ボールにこめる強い威力の二つが必要である。そのどちら がより重要か、という議論も成り立つが、今回のテーマ「スパットボウリングからドット ボウリングへ」というのは、基本的にボールのコントロールに関わる話題である。そして どんなに強烈なスピードと回転を持ったボールであっても、ねらったラインを大きくはず したのでは、絶対に望むような結果は得られない。野球なら投手が失投しても打者がミス をしてくれて助かることもあるが、ボウリングの相手は人間ではなくピンであるから、ボ ウラーのミスには、ミスという結果が出るだけである。  ここでは「ターゲット」の問題を軸に、ボールをラインに乗せるための3原則について 整理したいと思う。  第一に「ポイント」にボールを合わせること。助走におけるスイングやステップにおい てもあわせるべきポイントはいくつかあるが、ここではリリースから先に注目して、ター ゲットの部分から見ていく。  スパットであれドットであれ、ボウラーはその投球で決めた通過点(ターゲット)に全 神経を集中しなければならない。ここをはずしてしまえば、ボールがポケットに向かって いく可能性は激減する。ただし可能性がゼロになるわけではないところが、ボウリングの おもしろいところである。それは主としてレーンのオイル状態のなせる技である。反対に ターゲットをポイントとして通過したからといって、ストライクが約束されたわけでもな い。それは、「どんな角度(アングル)で」通過したかが、大きな問題だからである。  第二に「アングル」にボールを重ねること。具体的に言うと、たとえば第二スパット( 10枚目)を通過点として、ドライゾーンに入って曲がり始める時点では5枚目までボー ルを出したいと考えた場合、第二スパットを通過するボールには、それなりの「アングル 」が必要である。外に出しすぎてもいけないし、最初から板目に沿って進むボールでもダ メである。アングルのミスは、ポイントのミスに劣らず影響が大きい。しかもボウラーの 意識は「ポイント」に集中しやすく、「アングル」の調整は技術的にもやっかいである。  ポイントは助走のステップやスイングが多少乱れても、リリースの瞬間に強引に調整し て合わせることができる。しかしアングルはそうはいかない。なぜなら、アングルはリリ ースポイントとターゲット通過点を結ぶラインの問題だからである。ということはアング ルを決定するのはリリースに至るスイングのラインであり、スイングのラインを決めるの はフィニッシュの足の位置、フォワードスイングのワキの絞り(体にどの程度寄せた腕の 振りになっているか)などであり、それらは途中での調整がむずかしいからである。    第三に「ライン」にボールを乗せること。ターゲット通過時のポイントとアングルが合 っていれば、ボールはラインに乗る。ただし最後まで乗り続けるかどうかには、さらに別 の要素が加わってくる。これもまた、オイルを塗られたレーン上を走らせるというボウリ ングの独特のむずかしさである。  ボールがボウラーのイメージしたラインからはずれることなく、ポケットに向かってい くかどうかを決めるのは、ここまで見てきたような「ポイントに合わせ、アングルに重ね 、当初のラインに乗せる」というコントロールに属することだけではない。特にラインの 後半からポケットに向かっていく際に、そのカギを握るのは球速と回転である。球速がイ メージしたレベルより遅ければ、ボールはドライゾーンに入って予想以上に早く、大きく 曲がっていくし、速ければ曲がりは遅く小さくなる。  回転についてはその軸と回転スピードによってさらに複雑な効果を生み出すので、リリ ース時の手首のかたち、手のひらの方向、フィンガーのかかり具合、などによって投球ご とに小さな違いが生まれる。ここがまさにボウリングの技術にとって最もデリケートなむ ずかしい部分で、醍醐味とも言えるところだが、あまりのむずかしさについ手首を固定す る器具に逃げてしまうボウラーが多いのもうなずけるところである。  追い撃ちをかけるようだが、「ライン」に乗せる上でレーンの後半にはもう一つ別の難 問が待っている。それはドライゾーンのコンディションの問題である。ラインにボールが きれいに乗って、球速も回転もイメージ通りで、間違いなくジャストポケットに向かって いく、と思ったとたんにボールが予期した曲がりを見せないでスーッと流れていき、1番 ピンの右に薄く触れて、大きなスプリットになってしまった、などという経験を多くのボ ウラーがしていると思う。主原因はオイルが先の方に伸びていて、そこにボールが乗って しまったというケースだが、ボール自体に付着しているオイルが原因のこともあるし、ボ ールを持つときの不注意でボールについた汗が原因することもある。  心配される要素を一つひとつ考え始めるときりがないが、ボウラーとして最善を尽くす という立場から言えば、「ターゲットのポイントに必ず合わせること、助走のフォームを しっかり実行してターゲット通過のアングルに重ねること、そして少なくともフッキング ポイントに到達するまでのラインを、イメージしたラインに乗せること」を、常に全力で 目指したいものである。  それ以上の問題に関しては、ボウラーとしての自分が投げたボールに対する「観察」が 問題解決のカギを握るだろう。球速、回転、曲がり、入射角度、ピンアクションなど、1 8メートル前後先で展開するボールとピンの動きを、全力で観察することが、さらに高度な技 術向上へのトビラを開くはずである。 (4)「スペア・ボウリング」から「ストライク・ボウリング」への飛躍のカギは?   【ボウリングの得点加算法の驚くべき特徴】  上級者を意識した解説書が必ず触れるのがこのテーマである。ボウリングという競技の 得点加算法を見れば、これは全く当然のテーマであり、ボウラーがステップアップの過程 で必ずぶつかる大きな壁である。  よく取り上げられる話題だが、ストライク、スペア、オープンフレームの三種類が1ゲ ームでどう構成されるかということと、合計得点の関係について、簡単に見ておこう。  ストライクもオープンFもなく全て9本スペアだった場合、そのゲームの得点は190 点となる。では1・3・5・7・9フレームでストライクが出ていたら、どうなるか?そ れも199点にしかならない。連続ストライクが全くないと、各ストライクの効果はスペ アとほとんど違わないために、このようになる。  ところが、その五本のストライクがゲーム序盤に連続していたらどうなるか?後半がす べて9本スペアだった場合、そのゲームの得点は234点になる。1ゲームの構成が、ス トライク五本、9本スペア五回、という全く同じ内容なのに、なんと35点の差がついて しまう。これがボウリングという競技の大きな特徴である。これは思うに、二つのレーン を交互に使うむずかしさを克服してストライクをつづける、ということをとりわけ大きく 評価するという考え方から来ている。また、単純に得点を上乗せしていくだけでは、ゲー ムとしての変化に乏しいという考えも背景にはあるだろう。ボウラーの真の実力と、この 得点加算法が合致していると言えるのかどうか、そこには異論もありそうであるが、長年 維持されてきたルールでもあり、ここではその点に疑義をとなえることは控えよう。  さてここまでの例示で、ボウリングのスコアを伸ばすには何が必要か、は明らかであろ う。それは「ストライクをつづけること」に尽きる。単発のストライクを頻繁に出しても あまり意味がない。「連続ストライクを、できる限り何度でも出すこと」である。  単発のストライクは最大で20点にしかならないが、ストライクが二本つづけば、次が 1本残したとしても、最初のストライクのフレームは29点加算される。ターキー+1本 残りなら、最初のストライクのフレームは30点加算、次のフレームは29点加算される 。この得点法がどんなに強烈なものかは、二人のボウラーによるマッチゲームを見ている と痛感する。たとえば先程の例で、A選手がストライクと9本スペアのフレームを交互に くり返して6フレームまでいったとする。B選手は五本連続ストライクで6フレームから 9本スペアになっていったとする。第一フレームは20対30で10点差だが、その差は 20・30・39と、第四フレームまではフレームごとに拡大していく。ミスをしていな くても、差がどんどん広がっていくという無力感に襲われるのが、連続ストライクを前に したときの一方のボウラーの心理である。  乱暴な言い方をしてしまえば、「ボウリングは、ストライクをつづけた方の勝ち」とい う競技なのである。このことはプロやアマ上級者などハイレベルな場になればなるほど動 かしがたい現実である。そして、アマチュアの中級レベルでは、このことがレベルアップ の最大の壁となる。では、そのレベルアップのカギを握るのは何か? 【目標のステップアップと技術のステップアップを重ね合わせる】  『ボウリングの研究』本文において、「ストライクの条件」「失投と好投の分かれ道」 「ストライクの幅をいかに広げるか」「ストライクを連続させるには?」などのテーマを かかげて、ボウリングにおけるストライクの大切さと技術的な問題、メンタルの問題など について詳しく論じたつもりである。基本的にはそちらをまずご覧いただきたい。(第2 章・技術編その1)  ここでは、テーマの趣旨である「スパットボウリングからドットボウリングへ」という 問題との関連で、ボールのコントロールと威力を向上させて、ストライクの確率を高める ことについて検討してみたい。  最近私が実感していることを最初にまとめると、第一に、スパットボウリングでは、タ ーゲットがどうも遠く感じる。もう少し手前にターゲットを持つことでコントロールの精 度を上げられるのではないか。第二に、スパットボウリングでは、投球フォームがどうし ても高くなりやすい。もう少し手前をターゲットにすることで、姿勢を低く持っていくこ とができるのではないか。そしてそのことがボールの威力向上に役立つのではないか。以 上の二点であった。  つまり「スペアボウリングからストライクボウリングへ」というステップアップを実現 したいと思っても、その具体的方法が道筋として描けなかったのを、今回「スパットボウ リングからドットボウリングへ」という技術的転換が、その目標と重なっていくのではな いか、と思い描いたわけである。  もちろんボウリングの技術的向上の道筋は一人ひとりのボウラー独自のものであり、い かなるすぐれた理論も、あてはまるかどうかは個々のボウラーによって異なる。大切なこ とは自分の投球を熱心に観察し分析し統計をとって、常に問題意識を持って投げているか どうかである。そして、課題の解決に向けて小さな実践を積み重ねていくことである。  私の場合、「ストライクボウリングへの飛躍」は、ようやくたどり着いた大きなテーマ であり、しかも解決の道をいろいろと模索してきたが、どれも単発的な思いつきや努力に とどまり、筋道だった方針に成長していかなかった。ボールの重さを自分の限界にまで重 くし、それに耐えられる体力の維持・増強にも努め、球速と回転の向上にも意識を向け、 入射角度の向上にも気をつけてきた。しかし、自分の投球動作そのものの根本的なチェッ クに至っていないため、どうしてもそれぞれの努力が表面的にならざるを得なかった。  今回の「スパットボウリングからドットボウリングへ」という転換は、求める結果を最 初に掲げる(もっと球速を上げる、もっと回転を上げる、もっと入射角度を増すなど)の ではなく、投球動作を具体的に変えることからスタートすることが、大きな違いである。 それを本当に身につけるのは非常に時間がかかるが、どの程度実行できているかは自分自 身で確認できる。その評価データはすでに前に掲げたとおりである。 【ターゲットを近くして、コントロールと威力を同時に高める】  アマチュアシニアボウラーの、しかも「素手ボウリング」にこだわる者が、いつもいつ も「入射角度3〜6度のボールを、17.5枚目に投げつづける」など、とうていできるもの ではない。目標としては常に抱き続けていたいと思うが、現実にはその周辺にバラついた 投球をくり返すことになる。  「コントロール」に関する努力は、シニアボウラーにとっては最後まで最も大切な生命 線である。しかしむずかしいのは、コントロールはそれだけを取り出すことができない、 ということである。ボールを投げて、あるラインに正確に乗せる技術は、常にある球速と 回転がともなっている。だから、あるレーンコンディションでの精密なコントロールとは 、その状況に最も適合した球速と回転で投げ続けることができる、という条件も満たした 上でのコントロールでなければならない。つまりコントロールとは、ターゲット通過も含 めたラインコントロールに、球速のコントロール、回転のコントロール、入射角度のコン トロールなども含めた総合的なボール制御を意味している。  ターゲットを近くすることは、少なくともそのターゲットに対するコントロールミスを 少なくする、最も確実な方法である。もちろん、そのターゲットはラインを安定させるた めの「仮のターゲット」であり、真のターゲットであるピンに対するコントロールの向上 につながらなければ意味がない。したがって、ターゲットを近くするときは、その効果を 確実に高めるために、ターゲット通過のアングルに対する方針を持つこと、そのあとのラ インに対する正確なイメージづくりをすること、が欠かせない。それが連動するならば、 ターゲットをある程度まで近く設定することは、コントロールの向上にプラスにはたらく はずである。  では「威力を高める」ことについてはどうだろうか。これまで述べてきたように、ター ゲットを近くすることは、助走からリリースに至るフォームを変えることにつながる。具 体的には、視線が下がることで、いわゆるヘッドアップを防ぐことができる。それによっ て低い姿勢でリリース動作に入っていくことになり、スイングも鋭くなる。また、リリー スポイントも近く低くなるので、ボールの着床点が近く低くなり、球速と回転にとっても プラスになることが期待できる。  ただし注意しなければならないのは、第一に「低くなりすぎて、上体だけが突っ込んで しまう悪いフォームになりがちなこと」、第二に「ターゲットに合わせることができても アングルがブレてしまえば致命的なミスにつながること」、第三に「ターゲットが近すぎ ると、ボールに隠れてしまいターゲットとしての意味を失うこと」である。  私個人としては、せっかく取り組み始めた課題なので、ターゲットをギリギリまで近づ ける努力をしてみたい。そしてリスクを抑えながら最大の効果を上げるための限界点を、 見つけたいと考えている。  今後の動向については、『日々の研究』でさらに取り上げたいと考えている。                                                                             2013.08.08